2024年 高齢者の社会的孤立~居住支援と豊中市社協コミュニティソーシャルワーク

  2024年の3回生鈴木ゼミのテーマは、「高齢者の社会的孤立」と「子どもの権利」です。毎年、鈴木ゼミでは学生からの希望に応じてテーマを設定します。近年は子どもの権利や貧困の問題に関心をもつ学生が多かったのですが、今年は高齢者分野というこれまでにない新しいテーマが学生から希望として出されました。高齢者の社会的孤立については近年、国や自治体が力を入れている居住支援法人やコミュニティソーシャルワーク、子どもの権利については改正児童福祉法によって制度化された意見表明権を保障する子どもアドボカシーセンターの取り組みに焦点を当てました。ここでは、高齢者の社会的孤立のテーマに関わる学びを紹介します。

 居住支援法人とは、改正住宅セーフティネット法(平成29年10月25日施行)に基づき、住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居促進を図るため、住宅確保要配慮者に対し居住支援を行う法人として、都道府県が指定するものです。住宅確保要配慮者とは低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯など、住宅の確保に特に配慮を必要とする人々です。地域で生活をする上で住宅というのは最も基本的な社会資源ですが、これらの人々は、社会の偏見や差別、経済事情などの様々な理由により、住宅を借りることができず、社会的に孤立するという現状があります。高齢というのは誰でも経験することなので、これは私たち自身にも関わる課題です。

NPO法人くらしコープの皆さんとゼミ生たち

 2024年5月27日のゼミの時間帯にNPO法人「くらしコープ」の理事・余根田さん、京都府職員の椋平さん、この分野を研究する京都府立大学の藤岡さんをお招きし、くらしコープの実践や京都の居住支援の現状や課題についてのお話しを伺いました。くらしコープは2004年から生活支援の業務を開始し、2020年から居住支援法人として認可されています。くらしコープは物件を所有しているわけではないので、必要に応じて不動産に一緒に出かけていったり、既存のネットワークを活用して物件を紹介したりします。入居後も生活の支援をします。余根田さんからは今年に支援をしたいくつの実践事例について紹介してくださいました。余根田さんからは、当事者の方と一緒に不動産を探し回り、住宅確保のために奔走している状況について教えていただきました。

 また、2024年6月3日及び7月8日には、ゼミの時間帯に有限会社京都くらし支援センターの土岐美樹子さんをお招きして、お話を聞きました。1回目のインタビューの際に土岐さんのお話があまりにも面白く、もっと聞きたいという学生さんからの強い要望があったので、インタビューを2回お願いすることになりました。土岐さんのお父様が1972年から上賀茂でアパート経営を始め、この頃から不動産からの紹介で賃貸が難しい人(夜の仕事をする女性たち、出所者、ヤクザも含む)を中心に、連帯保証人がない人を受け入れてきたそうです。
 2012年から土岐さんご自身がアパート経営に関わり、2019年に居住支援法人の指定を受けました。当センターは、上賀茂や北白川エリアにアパート4棟(合計54室)・一戸建て10件・分譲マンション(2室)の66室を所有し、サブリース物件(左京区2件、北区2件、右京区1件)の17室を借りており、合計で83室の支援をしています。

京都くらし支援センターの土岐さんとゼミ生たち

 いずれの居住支援法人でも、住宅について不動産会社や支援団体から相談がなされ、どのような人も拒否せずに対応します。例えば、相談者は、高齢者、障害者、母子家庭、刑務所の出所者などです。現在では外国籍の人からの相談はほとんどないということですが、団体としては支援をしていきたいと話されていました。支援が困難な人については、土岐さんは以下の例についてお話してくれました。

 脳梗塞のため社宅を出ることになった高齢男性がいました。この人は連帯保証人がなく緊急連絡先がないため、受け入れ先が見つからず、京都くらし支援センターが受け入れることになったそうです。この男性は呼吸器をつけています。ある日、土岐さんが部屋に入ると布団が便で汚れていることに気づいたそうです。その後、土岐さんは母と一緒にこの男性を病院に連れて行き、入院することになりました。その後退院し、訪問看護、ヘルパー、ケアマネ、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業の支援員と共にカンファレンスを行ないました。カンファレンスでは見取りもできるのかと聞かれ、土岐さんはそれはできると回答しました。センターのアパートの住人は寝たあとにそのまま起きずに、亡くなることが多いそうです。高齢者が賃貸できない理由の一つは孤独死ですが、土岐さんはこれは「自然死なので受けいれている」と語っていました。この男性については、ヘルパーやケアマネが関わるのに難しさを感じていますが、土岐さんに対しては対応が異なるそうです。病院関係者は土岐さんに対しては自然に接しているので驚いたそうです。男性の部屋は駐車場に面し外に専用の椅子を置き彼はそこに座り、土岐さんが通りがかると挨拶もしてくれます。こうした工夫も高齢者が孤立しないようにするための土岐さんの働きかけでした。
 居住支援法人は、住宅を貸すだけではなく、簡単な食事の提供や通院、掃除などの日常生活に関わる支援を行う場合があります。ただし、どのようなことまで支援を行うべきなのかという制度的規定はないので、居住支援法人によってその対応は様々であるそうです。

 二つの法人からは、国の施策の問題についてもお話してくださいました。住宅セーフティネット法にはセーフティネット住宅という住宅確保要配慮者向けの住宅が制度として保障していくことが定められています。ところが、セーフティネット住宅として認可されるためには、一定の居住スペースや耐震構造の条件を満たさなければなりません。この結果、大規模な住宅改造をすることによって費用がかかり、物件の賃貸料も上がることになります。住宅要配慮者の多くが生活保護世帯であり、例えば、京都市では一人世帯4万円、三人世帯で5万2千円と住宅扶助費の上限が決まっています。住宅セーフティネット法には家賃補助の制度もありますが、京都市はこの制度を実施していません。
 セーフティネット住宅は生活保護基準額を上回る家賃が設定されているため、住宅確保要配慮者の多くが利用できない状況が生じているそうです。住宅セーフティネット法の管轄は国交省ですが、厚生労働省による福祉政策と十分な調整がとれていないために、このような問題が生じている側面があります。結果的に、居住支援法人の多くがセーフティネット住宅として登録されている物件ではなく、生活保護世帯でも賃貸できる物件を紹介しているのが実態です。

 高齢者の社会的孤立の問題は、住宅だけではありません。そこで、何か困りごとがあった際に身近な存在として相談することができ、関係機関への橋渡しをしてくれるコミュニティソーシャルワークの役割や機能についての学習も行いました。具体的には、2024年8月2日及び3日に開催された大阪府豊中市社会福祉協議会のコミュニティソーシャルワーク研修会にゼミ生たちがボランティアとして関わりながら、豊中市の勝部麗子さんをはじめとするコミュティソーシャルワーカーの皆様から講義を受けました。
 さらに、全国から研修に参加した現場の相談機関のワーカーの皆さまと行うワークショップにも参加させていただきました。高齢者が社会的に孤立せず、地域社会のなかで安心して生活することできるようにするための相談や見守りの仕組みについて教えていただき、学生たちはとても大きな学びになったと話していました。

 春学期の学びでは、主に高齢者の社会的孤立の問題について、居住支援法人やコミュニティソーシャルワークの観点から考えてきました。貴重な経験についてのお話しをしてくださった関係者の皆様に心より感謝申し上げたいと思います。ありがとうございました。

 

 

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