2025年 大阪・釜ヶ崎のフィールドワーク~子どもの権利と高齢者の貧困を考える

 2025年7月12日(土)に、鈴木ゼミ3回生で、大阪・釜ヶ崎でのフィールドワークを行いました。私たちのゼミでは、子どもの権利や障害者の自立の他、高齢者の社会的孤立や貧困の問題について考えてきました。今回の訪問では、午前中は、NPO法人こどもの里の代表である荘保共子さんのお話をお伺いし、午後は、水野阿修羅さんのご案内で、釜ヶ崎の街歩きを行いました。2022年にも同様の取り組みを行っており、今回で私たちのゼミによる訪問は、2回目となります。

 午前中は、旅路の里にて荘保さんから、こどもの里の設立の経緯やこれまでの活動についてビデオ映像を見せていただきながら、子どもの支援の具体的な事例について説明していただきました。

 たとえば、虐待をしている母への対応として、児童相談所とは異なるアプローチがなされていることをお話していただきました。児童相談所は、虐待のリスクがある場合は母子分離を行い、子どもの安全を確保しようとします。しかし、こどもの里は、虐待のリスクのある場合は、一時的にこどもを預かる一方、母との面会を重ねて安全が確認された場合には、母子関係を再構築しようと努力するエピソードが語られました。分離するか、統合するか、の二者択一ではなく、子どもの思いを中心に置きながら、親子関係の修復のための努力を重ね、柔軟に対応する取り組みがなされているということでした。荘保さんからは、アメリカの研究成果として、分離された子どもより、そうではない子どもの方が、QOLが高くなるというデータがあることを教えていただきました。子どもの安全を守りながら、親子が共に暮らす道を探ることの重要性を教えていただきました。

写真 旅路の里にて、荘保さんからお話を聞く学生たち

 また、トラウマ・インフォームド・ケアについてのお話をしてくださいました。子どもが他人を傷づけたり、自傷行為をしたり、何らかの非行行為をするのは、自らのトラウマに対する正常な反応であるというお話をしていただきました。なんらかの問題行動をとることによって、子どもたちは必死に自らのトラウマに対処しようとしているわけであり、それを自然な反応として理解することが周囲の人間には求められることを教えていただきました。

 このような理解は、私の研究テーマと関わる入所施設で生活する知的障害者の問題行動とも共通すると思いました。施設や病院にいる知的障害者は、自傷行為や他傷行為ゆえに、拘束されたり隔離されたりする事態が起こっていますが、なぜ彼らがこのような行為を取ったのかということを考え、こうした問題行動は自由が保障されない環境やその環境で生活してきた彼らのトラウマに対する自然な対処方法なのだと理解することが重要なのだと改めて思いました。

写真 水野阿修羅さんから案内をしてもらう学生 

 午後は、水野阿修羅さんから釜ヶ崎の街の中をご案内していただきました。

 近年では、炊き出しをする業者が多く現れているが、これらの中には、路上生活者を勧誘し、生活保護を受給させてアパートに住まわせ、収入を得る貧困ビジネスがあることを教えていただきました。また、京都の工事現場や福島の除染現場に日雇い労働者を派遣する業者が事務所をかまえていることや、こうした労働に従事する若い人が増えていることを教えていただきました。かつての釜ヶ崎とは異なる貧困の問題が現れていることを感じました。

写真 福島の除染現場の求人情報の掲示 

 訪問後の学生の感想には、想像した以上に「町がきれい」だという意見がありました。彼らは釜ヶ崎訪問は初めてなのですが、ネット情報を通して、「汚い」、「荒れている」という印象をもっていたそうです。道路は比較的きれいに整備され、路上生活者は少なく、比較的歩ける環境であることに驚いているようでした。それだけ、ネットや親からの情報、人々のうわさを通して、釜ヶ崎に対する固定的イメージが形成されていること、そして、現在は生活保護受給者の拡大によって、かつての釜ヶ崎とは異なる街の様相に変化していることが示唆されていると思います。

 3年前に学生たちと歩いた時より、介助者の支援を受けて、車いすで外出する高齢者が多いという印象をもちまし。皆さん、かつて日雇いで働いてきた労働者で、生活保護を受給して生活していると聞いております。それにしても、35度を超える猛暑の中でも、商店街などに外出されている高齢者がなんと多いことか。介護が必要な状態になり、それでも、釜ヶ崎の街への外出のしやすさもあり、不思議と様々な人を包摂する雰囲気が街に醸し出されているからではないかと思いました。

 釜ヶ崎訪問の後は、こどもの里に行き、学生たちは子どもたちと一時間ほど遊びました。子どもたちの元気あふれるパワーに学生たちも圧倒されている様子でした。この街に生きる子どもたちの元気な様子と力強さに改めて感銘を受けました。子どもが子どもらしく、思いっきり遊べる場があること。こどもの里が子どもを「どまんなか」において考える場だからこそ実現できることだと改めて思いました。 荘保さん、水野さん、改めてありがとうございました。

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